2007年04月07日

獄中41年から見る刑事処遇〜無期刑の傾向を踏まえつつ〜

1.序

 袴田巌さんが濡れ衣を着せられ静岡県警に逮捕されたのが1966年8月、本年(2007年)を以て身柄拘束期間が41年に達しようとしている。実に、袴田さんの人生の半分以上の期間を権力当局によって拘束され、彼の人生の全体をも破壊せんとするに及んでいる。このことの意味を、昨今の無期刑受刑者の処遇に触れつつ論ずることとする。

2.無期刑受刑者の平均受刑在所期間

(1) 筆者はかつて幾つかの拙論で、「無期刑を受けても10年そこそこで刑務所を出てくることができる」という世間的に流布された見解がデマであることを指摘し、無期刑の執行期間がかなりの長期に亙っている実情を指摘した。その端緒となったのは、第145回国会(1999年)において、福島みずほ参議院議員が提出した質問主意書(註2)に対する内閣の答弁(註3)とそれを基にした報道である。その質問の一部とそれに対する答弁の概要は、次の通りだ。

【質問】
 「第99矯正統計年報?」(平成9年)によると、受刑中の無期刑囚は、938人であり、出所者(仮出獄者を含む。)の平均受刑在所期間は約258月(約21年6月)であると報告されている。しかし、右統計では、現在、刑を執行中の無期刑囚の執行期間を知ることはできない。聞知するところによると服役開始後すでに45年を超える無期刑囚がいるとのことである。(略)
 右観点から、以下の点について質問する。

一(一) 平成11年4月1日現在、無期刑囚で受刑開始後、25年以上30年未満の者、30年以上35年未満の者、35年以上40年未満の者、40年以上45年未満の者及び45年を超える者の人数及び収容施設名を明らかにされたい。

【答弁】
一の(一)について
 平成11年4月1日現在、行刑施設に収容されている被収容者のうち、無期刑の執行を継続した期間が25年以上の者の御質問に係る期間別及び施設別人数は、別表1(註4)の通りである。

(別表1)

cyoki.bmp

(2) 以上の通り、当該質問主意書によって、無期刑を執行されている受刑者の内その期間が25年以上に亙る者の存在が明らかにされた。この質問主意書は、「第99矯正統計年報(平成9年)」を手懸りとしてなされたものであるが、近年の無期刑受刑者の在所期間の傾向を把握する為、最新の第107矯正統計年報(2005年)から起算して過去10年分のそれに基づき無期懲役受刑者の内仮釈放がなされた者の平均受刑在所期間を調査した。結果は次の通りである。(表1、表2参照)

表1
nenpou.bmp

(備考)月および年は概数(約)である。第106(2004年)は仮釈放者が1人しかいないため平均が表記されていない。なお、当該1名の受刑在所期間は「20年を超える」欄に「1」とだけ記されている。すなわち、20年を超える期間刑務所に在所した後に仮釈放されているということである。

表2
avjukei.bmp

(3) 上記表を見ての通り、1996年から2000年までは約20〜21年で推移し、2001年からやや期間の延長が見られ、2007年には約326月(約27年2月)という一層の受刑期間の長期化を垣間見ることができる。この傾向は、最高検が「マル特無期事件通達」(註5)なるものを出していることや刑法改正により有期刑の上限が引き上げられたこととの権衡、メディアに扇動された厳罰化を求める社会的風潮を考慮すると、今後も継続していくものと思料される。
 なお、矯正統計年報に報告されている無期懲役受刑者の平均受刑在所期間は、仮釈放になった者の平均であって、前記福島質問に対する答弁で明らかなように、平均を超えてなお仮釈放になっていない無期刑受刑者がいることを斟酌すると、その期間は更に延びる点に留意が必要である。

3.袴田巌さんの処遇に比定して

 袴田さんは冤罪である。従って、そのこと自体が極めて不当なことであるが、受けた判決が死刑であることからその不当性が一層際立つものとなっている。すなわち、前述の通り本年を以て袴田さんの身柄拘束期間が41年に及ぼうとしているわけだが、これは2で報告した無期懲役受刑者(仮釈放者)の平均受刑在所期間を遙かに上回っている。仮に無期懲役であったとしたら、とっくに仮釈放になっていてもいいくらいの期間を拘置所で過ごさせられているのである。更に、現状ではいつでも死刑が執行できる状態に置かれているわけで、刑罰が無期懲役であったとしても十分過ぎる程の期間を身柄拘束され続けている上に、更に死刑執行に直面させられているのは、無期懲役と死刑(ないしは死刑執行の恐怖)とを併せて執行されているに等しいのではないか。それも「無実」の者に対して……。権力当局の過誤(証拠を捏造した点において故意)によって、極めて残虐な刑事処遇が為されているのが、袴田さんの現状である。
 一刻も早く、袴田巌さんを救出しなければならない所以である。


(註2) 質問第15号 無期刑囚の執行期間及び医療体制に関する質問主意書
(註3) 答弁書第15号 内閣参質145第15号 平成11年5月25日
(註4) 別表1は、執行期間に対応した人数のみを抽出し、答弁書原本の別表を筆者が改変した
(註5) 監獄人権センターのHP(http://www.jca.apc.org/cpr/)「最高検察庁の通達を撤回させよう」参照

【TB】
日本の無期懲役とヨーロッパの終身刑の実際〜マスコミの責任の大きさ
posted by 闘うリベラル at 00:35| Comment(3) | TrackBack(4) | 袴田事件 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
無期懲役刑に関する誤解の蔓延を防止するためのブログの管理人です。
トラックバック送信ありがとうございます。

いくつかコメントさせていただきます。
ブログの内容と重複する部分も多いですが、ご勘弁下さい。

@2004年の仮釈放者1人の在所年数について
 矯正統計年報によると「25年10ヶ月」となっております。
A2000年以降の仮釈放者について
 2000年〜2005年までに仮釈放になった無期囚は51人ですが、そのうち48人が在所20年を超えての仮釈放です。このことから、2000年以降では、基本的に20年以上が仮釈放の最低条件となっていることがわかります。
B在所40年以上の無期刑受刑者について
 99年の福島瑞穂質問主意書によれば、在所40年以上の無期刑受刑者は11人(99年4月時点)ですが、その約1年半後の2000年10月3日政府答弁書によれば在所40年以上の無期刑受刑者は17人(00年8月時点)となっています。
C未仮釈放最長在所者
 2002年5月31日衆議院法務委員会会議録によれば、同年2月時点での最長在所者の在所年数は52年10ヶ月となっており、以下、52年0ヶ月、48年3ヶ月、48年1ヶ月、47年2ヶ月となっています。
 現時点では、獄死によるの減少を考慮しても、25人程度が在所40年以上、6人程度が在所50年以上となっていると推測されます。
Dマスコミについて
 法制上は、10年経過後(少年のとき無期刑の判決を受けた者は7年経過後)から仮釈放が可能な規定になっているため、このことなどを根拠に「10年で仮釈放できる無期懲役は軽すぎる」と批判されることもありますが、このような批判は近時の実態にそぐわないと言わざるを得ません。
 近時の実際の運用を一切伝えず、仮釈放が可能となる法律上の最短年数や、西山省三被告の事件など15年も前の特異なケースのみを強調して報道するマスコミの姿勢は問題視されるべきです。

E終身刑について
 「日本には諸外国と違って終身刑がなく、無期懲役は期限が決まっていないだけでいずれ必ず出所する」などという認識が非常に蔓延していますが、本来、終身刑とは、刑期が終生に渡るものをいい、仮釈放の可能性がなく一生を必ず刑務所で過ごさなければならない刑のみを終身刑と呼ぶわけではありません。
 終身刑(Life Sentence)には、仮釈放の可能性のある終身刑(相対的終身刑)と仮釈放のない終身刑(絶対的終身刑=Life Sentence without possibility of parole)の2種があります。
 しかし、日本においては、一般的に絶対的終身刑のみが「終身刑」と認識されており、このため、他国の終身刑が過大評価されていますが、多くの国における終身刑は、日本の無期懲役と同様の「相対的終身刑」であり、絶対的終身刑を置いている国はアメリカ(一部の州を除く)やオーストラリア(同)などむしろ少数です(02年4月11日森山大臣国会答弁、06年10月20日長勢大臣国会答弁)。
 したがって、このような意見は前提を欠くといわざるをえません。
Posted by youhei at 2007年04月07日 01:12
(補足)
2004年の仮釈放者の在所年数が25年10ヶ月というのは、矯正統計年報ではなく、平成18年03月30日参議院法務委員会会議録の麻生光洋氏の発言によって確認できます。
Posted by youhei at 2007年04月07日 01:22
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